中世中期から末期にかけて衣ヶ浦周辺を支配した水野氏は、徳川家康の生母於大の方の実家として名を知られている。戦国時代は西の織田氏と東の松平氏、今川氏の狭間で翻弄され、一時は滅亡したが、その後復活し、江戸初期の水野勝成の時代には徳川家の譜代大名として刈谷３万石から大和郡山６万石、福山１０万石と出世した。歌舞伎で有名な播随院長兵衛（ばんずいいんちょうべえ）を無礼討ちにした旗本水野十郎左衛門はこの水野勝成の孫である。また、天保の改革で知られる老中水野忠邦はこの水野本家ではないが、戦国期に分家した一族の子孫である。
水野氏はもともと小川氏と言い、清和源氏の流れを汲む武家で鎌倉時代から小河村（現知多郡東浦町緒川）の地頭として、この地を本拠としていた。ところが、南北朝時代に三河・伊勢の守護仁木義長と、南朝方との戦いで活躍した畠山国清との幕府内での対立に巻きこまれ一時滅亡した。この時、小川正房は、延文５年（１３６０年）７月に伊勢に逃れて南朝方となった仁木義長側につき、同年８月、幕府の命を受けた尾張守護土岐氏の軍勢に攻撃され討死した。そして、子孫は水野郷（尾張国春日井群山田荘）に流浪した。その後、小川姓を水野姓に改め、応仁の乱の頃、その末裔である水野貞守によって旧領小河の地で再興された。
しかし、これは近世になって作成された水野氏系図に基づく話である。水野氏の系図は、江戸時代になって数種類作成されている。そして、成立年代の遅い系図ほど、清和源氏の流れを汲む小川氏の末裔で由緒正しい武家としての水野氏系図が作為的に整えられていく。小川氏は実在し、土岐氏によって滅ぼされたのは事実である。だが、水野氏がその小川氏の末裔であることを示す同時代史料は存在せず、逆に、そのことに疑問を投げかける史料が存在する。結局、水野氏に関して血縁関係をたどることができるのは水野貞守以降である。その水野貞守についても同時代史料はなく、後になって作られた系図などの史料しかない。また、貞守以降の系図に関しても疑問点あるいは意図的な改ざんと思われる部分がある。これら水野氏と各種史料の真偽についての考察は「刈谷市史 第二巻 近世」に詳しく書かれている。
水野氏（旧小川氏）を再興した水野貞守は永享元年（１４３７年）に生まれた。享徳元年（１４５２年）、１６歳で志を立て、隣国を遊歴する。その後、旧臣牛田氏の末裔に逢い、復興の計画を謀った。そして、永見氏、中山氏、久松氏を臣下に加え、小河の城を修築し、刈屋、熊村、大日、大高、常滑の諸氏を従えて、やがて刈屋に城（現在は刈谷古城と呼ばれる）を建てた。そして、長享元年５月１８日に５１歳で没し、小河の乾坤院（貞守が建立）に葬られた。
続く
水野氏系図
貞守 ―― 某 ―― 某 ―― 忠政 ―― 信元
| |― 女子
|― 近守 |― 信近
|― 忠守
|― 於大
|― 女子
|― 女子
|― 女子
|―
|―
|―
|―
|―
|―
|― 忠重
水野忠政
水野信元
水野忠重
水野勝成
於大の方
参考資料
「刈谷市史 第二巻 近世」